地域デザインをめぐって vol.18 “修士研究”

修士研究を振り返って

柴田 純花 + 窪田 亜矢

柴田純花「市街地原形に着目した初期面的整備市街地の形成及び変容に関する研究:神戸市内宅地整備型耕地整理事業地区を事例として」

まずは修了おめでとうございます。

1.修士研究が完成するまでのプロセス

最初は場所を決めたかった。どこにするか悩んでいて、卒業設計からの流れで、福井の在郷町研究をやろうと思っていた。地元に対する義務感みたいなものもあった。しかし他の場所に対する理解の深まりはなくてもよいのか、とも思っていた。復興デザインスタジオで新長田という場所にめぐりあって、スタジオでの提案が不十分だったと思っていたのもあり、10月頃に新長田で研究することに決めた。 一方で、テーマとしては、在郷町を対象にしようとしていたときも、形態学的な都市形成のプロセスを研究としてやりたかった。新長田は、耕地整理によって市街地の区画が計画的につくられていて、街道一本から徐々に市街地拡大していった東郷とは全く異なる都市形成の過程を辿っているということで、対象にしようと思った。

・どう深まっていった?

研究室会議のたびに主題は出していたが、明確には決まっていなかった。現地に行って歩いたり、とにかく手に入る資料、大正から昭和初期の新聞、文献、地図を収集したりする中で、何を形にできるか、という感じで調査をはじめた。やりたいことはあったが、テーマとしてうまく他の人に説明することができず、「密集市街地」とか、とりあえずのキャッチーなワードをテーマとして掲げていた。キャッチーなワードを一旦出していって、深めて、を繰り返していたが、ぐるぐる回っている感じもあった。常に、そのテーマでいっちゃうと、自分のやりたいテーマじゃないかもしれない、という気はしていた。
というあたりが、M1の後半からM2の前半だったかな。

・現地に行こうと思い立つときは?

ふと資料が欲しくなったり現地を見たくなったりしたら行っちゃっていた。何回行ったんだろう。15回ぐらいかな。

・見えてくる風景は変わった?

現在というよりは、過去の昭和とか大正という時代を調べていったので、過去の蓄積があって、今ができているという都市の見方はするようになった。卒業設計も修論も場所から入ってその1つの場所を理解したいというタイプだったので、他のまちにいったときの見方の原点になった。

・しんどいときは?

このテーマで書けてしまうだろう、というものは何度も思いつくが、これが本当に修士にきて2年かけてやりたかったテーマなのだろうか、というテーマでしかなかった頃はしんどかった。自分がやりたいテーマとはなにかという方と、新長田にとって何をテーマにするのが適切なのかという方を、両方進めないとと思っていた。

・両方の進め方?

他の人の研究を読んでいくと、こういう研究はやりたいものに近いな、とか、論の構築の仕方の参考になり、勉強になった。そういうのは研究室会議で発表はしなくても自分の中に蓄積していった。もうひとつは、新長田を調査する中で、何をテーマにすると、新長田を語り得るテーマになるかということ。両方を合わせてテーマを決めたという感もある。徐々には合っていったが、2年経ったくらいなので、4月頃。完成の3ヶ月ぐらい前か。安心したというより、これで修士来た意味があったな、という感じ。
研究室会議が終わったら、次の研究室会議とか、締め切りまでのやることを考えた。やることを挙げて日割りで考える、みたいな。そうやって予定を立ててやっていくのが好き。修士の後半は計画的に進められたかなと。修士の前半も、次の研究室会議で何を発表しようかという目標は持っていて、今何をすべきか、は考えながら進めていた。

・執筆好き?

あんまり好きじゃない(え?そうなの?)、得意ではないですね。まあでも、やってきた作業を構築する、みたいな意味では好きかも。やってきた作業を、形にして他人に伝えるまでが研究、という意識がある。
まとめシート(A3カラーでまとめた!)もそういう意味。論文のままだと情報量が多すぎちゃうし、パワポだと削られちゃう。ちゃんと論の筋を見せながら、細部を散りばめられる、みたいなことをしないと、特に伸さんとか直人さんにみていただくときには、両方ないと面白さが伝わらないかなと思っていて。

・パワポは削られすぎちゃう?

なんとなくですけど、パワポは良くも悪くも発表者の論に乗せられすぎちゃう感じがあって、冷静に突っ込みがもらえるようなものとは違うなあと。パワポを説明するための道具、みたいな。

・発表してどうでした?

夏の発表だったのに、結構、たくさん先生がいらしてびっくりした(笑)わたしの研究は、さっと聞き流すと、普通のことしか言ってないという空気になるかなと思っていた。でも、深めてくださったりするような質問をいただいたので、ほっとはした。
ただ、論の全体を伝えたくて、結構、詰め込んでしまったので、改善の余地はあったかもしれない。
(ここはみんなにも共通の反省点か。難しいが。全体像も伝えたいし、重要な箇所だけでも、というのもある。。。)

2.修士研究に取り組んで得たこと

・2年半やってきてよかったこと?

1つのまちを対象にして、網羅的に深く理解することに、集中できたことはよかった。それで他のまちの見方ができたと思う。
2年間、ほとんど研究しかやってなかったので、それは良い面と悪い面があると思うが、無駄かもしれない作業にも取り組む時間をとれたのはよかったと思う。論文に書けなかったけれど、自分の中に感覚として残っていくものがある。無駄な作業というのはないのかもしれない。それには他の時間を犠牲にしないとできないと思っていて、それによる後悔ももちろんあるが、言語化できないレベルの小さな理解がたくさん得られたと思う。

・歴史研究として、作法を守ったり、身についたところもあるのでは?

王道の歴史研究を読んでいると、厳密さみたいなものを目標にすることはできたし、それを自らに課すことができた。自分のやっていることをひとつひとつ確かめながら進むというのが性にもあっていたかも。

・無為な時間はあるんですか?なさそうにみえますけど。

無駄に悩みすぎる時はありますかね。心配性なんで、考えすぎちゃう感じはあって。考えるのはよいことだと思うけれど、そこまで悩みこまなくても、とりあえずやってみるとかすれば良かったんですかね。


▲ スケジュールを立てて、丁寧に積んでいく

3.後輩に向けて(反省点でもある)

まずは自分が修士にくることを選んで、2年間で、何をやりたいのか、考えて、やって、アウトプットするという単純なことに集中するというのが一番重要ですかね。研究は勿論、設計にしても、プロジェクトにしても。それと、特に修士以上の人は、やっていることを客観視して、まだ全然足りていないな、とかレベルの低さみたいなものを自覚するというのも必要だと思う。

・集中するコツは何ですか?

研究だったら、短期的な修士論文を書き上げるという目標じゃなくて、もうちょっと、その先に自分のやりたいことがあって、そのために良い研究をしたいという意味で、その先の野望みたいなことがある方が、単純に修論をこなすというだけでなくて、もっとやらなきゃ、みたいなことに繋がるんですかね。

・お茶とかグッズみたなレベルでのコツは?

音楽はいいですね。音楽は1曲リピートが基本。1日この曲みたいな。1人の世界に入るための道具。音楽の中の世界に入って、そこで集中できる。イヤホン忘れたら、帰ってとってくるレベル。
それとスケジュールたてるのが好きです。前日に予定立てます。作業的なものと思考的なものを組み合わせて、朝は前者、ノッテきたら後者、とか。
あとは、今年度に入ってから紅茶100パックを買って、修了までの使い切りを目標にして、研究室に来てやらねばというモチベーションにつなげていた。

・やりたいことがみえない人も多いと思うが、やりたいことはあるという信念みたいな?

私の場合は、究極的な、たとえば「こういう世界にしたい」みたいなレベルの信念があって、そのために今自分ができることは修論だったり、卒業設計だったりするから、そのレベルで何ができるか、という感覚があったのかもしれない。なので、テーマが適切じゃないなという判断は、そこと照らし合わせていた。

・やりたいことが持てない人へはどうすればよい?

感化される瞬間は誰しもあると思うんで、あんまり捨てないことですかね。というか、持たなければいけないと思わなければ持てないですよね。
私もB3になるまで何もなかったんで、都市工のおかげというか。人生で考えれば、就職とか結婚とか、その契機に何か思うことがあるだろうから焦ることもないかも。あ、でも、卒論や修論で考えると焦らないといけないですね。

4.未来の自分に向けて(何でもあり)

当面は、設計事務所に行くので、設計とは何かということに没頭しないとと思っている。知らないことしかないと思うので。設計の世界での可能性や限界を知れると思うので、1から学びたいなと。
長期的には、形成史とか歴史とか、そういうものを通して、地域を深く理解できる人でありたいと思っている。なんとなく、強い主張が通っちゃう世の中なのかなと思っていて、それに対して深い理解で対抗して、声をあげない、あげられないものに、寄り添って仕事をしていきたいです。

・代弁したい風景とか地域はあるか?渋谷は色んな人が勝手に代弁している感じだし、だれも見向きもしてくれない地域もある。

地元はありますが、色んな思いが強すぎて、難しい。程度の差はあれ、強いものと、そうでないもの、というのはどの地域でもあると思っていて、研究とか設計って、それら全部に平等であれることがいいなと思ってます。勿論すごく難しいと思うんですけど。理想論すぎますかね。(笑)

・地域とか風景とは?

空間とその背後にいる人々、暮らしている人が基本。

・もう一歩言うとすると、地域の何を理解したい?

その場所で如何に良く暮らせるかということを提案することが設計することかなと思います。そのために必要なことはなんでも。

・さっきの質問ともかぶるが、設計とはその場所で如何に良く暮らすか、どう暮らしが良くなるかということを提案すること?

そう思いますけど、それができるかは分からないです。そうじゃない論理で動いていく仕事もあると思うので、思いを持ち続けるということと、違う論理も理解したいなと。現時点では、仕事のイメージがわかなくて、目標とか立てられていなくて、半年後に目標をたてるという目標を立てています(笑)

・他に言い残したことは?

修論は基本的に個人戦だったけど、研究室全体での蓄積をどう継承するかということですかね。テーマがある程度限定されている研究室だと蓄積しやすいだろうけど、デザ研とか地域デザイン研とかのように本当に自由だとすると、難しい、、、どうしたらよいかな。とりあえず研究室会議の自分の持ち時間はすごく大切にする、というくらいから始めるんですかね。

・研究室に対して何か?

研究室に対しては、2つかな。
1)まずは自分の修論とか卒論に1人1人が責任を持つこと
2)研究室全体をちゃんと考えること、自分が研究室に対して何ができるか、考えると、地域デザイン研究室が良くなるのではないかと思います。

おまけ:ツイートで振り返る修士研究