地域デザインをめぐって vol.14 “熊本地震”

熊本地震被災地踏査からの考察 1 熊本地震の全般的考察

澁谷 崇

2016年4月14日以降、熊本や大分で地震が続いた。震度7を2度含む、非常に強い揺れが断続的に継続した。直接の犠牲者は50人となった。
こうした状況に対して、東京で復興デザインを研究している私たちは何ができるのだろうか。
地元のご迷惑にならない範囲で、被災現場にお伺いして、何が起こったのか、起きているのか、その実態を学ばせていただき、各自の研究的関心に引き寄せて、次に生かすためによく考えよう、ということになった。
きちんとした調査ができたわけではなく、1,2度現地を歩いて、その後、有志一同で議論をしてリサーチ・クエスチョンを温めた程度にすぎない。しかし、同じように考えている方も少なくないと思われ、一応、ここにまとめておくこととした。

1 熊本地震の全般的考察(澁谷崇)
2 益城町中心部における建物・道路被害等に対する市街地形成の観点からの考察 (萩原拓也)
3 避難所・仮設住宅(井本佐保里)
4 広域における震災(益邑明伸)
5 震災における国と地方自治体(窪田亜矢)

■地震の概要
発生日時 :2016年4月16日1時25分(前震:2016年4月14日21時26分)
人的被害 :亡くなった方88名(50名が直接死)※2016年8月15日時点
最大震度 :震度7(熊本県西原村、益城町)

■現地見学の概要
期間:2016年5月6日~7日
見学地:熊本県 益城町(町役場周辺・益城町総合運動場)、阿蘇市(阿蘇神社)南阿蘇村(阿蘇大橋周辺)、熊本市(熊本城周辺)、宇土市(市役所周辺)

現地見学で把握したこと

□被害状況(括弧内は対象見学場所)
○地震全般について
余震が広範囲に広がっているなど、広い範囲に被害が出ている今回の地震の中には、被災地と一括りに言っても様々な都市・施設が含まれている。具体的には、県庁所在地、ベッドタウン、大学、ダム、原発、新幹線、高速道路などがある。(見学地全般)

○都市としての被害
4m以上の道路幅員があっても道路閉塞が起きていた。道路の陥没・隆起、マンホールの浮き上がりなども散見された。(益城町)


▲陥没した道路を土嚢で修復した箇所、2016年5月6日 益城町で撮影


▲マンホールが隆起した箇所、2016年5月6日 益城町で撮影


▲家が崩れて発生した道路閉塞、2016年4月24日 益城町で撮影

○建物への被害
・立地・地盤による被害特性
川・沢に沿った地形の建物に被害が顕著であった。(益城町)

・耐震化による差
同地域の中でも建物ごとに被害の様相が違っていた。立地や地盤など様々な要因が絡み合うもの ではあるが、近年に出来、耐震化していると思われる建物は被害が比較的小さかった。(益城町)
一方、益城町の中で見たある住宅の例として、その建物自体は大きな被害を受けていないが、隣 接する建物が大きな被害を受け傾いた結果として、建物に損害を被る例を見た。
また、建物の躯体自体には大きな影響はないが、瓦屋根が落ちる被害は多数出ていた。


▲一ヶ月経て横の家にもたれかかるように壊れた家、2016年5月6日 益城町で撮影


▲更に一ヶ月後には隣家に屋根がぶつかり隣家の壁を損傷させた、2016年6月11日 益城町で益邑撮影

・文化財への被害
熊本城・阿蘇神社など文化財の被災も目立った。これらは発災時刻が夜間であったこともあり、 人的被害が出ていない。(熊本城・阿蘇神社)


▲地震で壊れた阿蘇神社、2016年5月6日 阿蘇市で撮影

・都市ビルへの被害
同じく都市型地震である阪神淡路大震災との比較になるが、熊本市内のビルは大きな被害が出て いるようには見受けられなかった。(熊本市内)


▲熊本市内のビル。外から見た限り大きな損壊は見えない、2016年5月7日 熊本市で撮影

現地見学以外で把握したこと

□対応の状況
○報道のあり方
SNSの発達により報道機関だけではなく一般市民の発信が多かったのが今回の地震の特徴である。
特に報道機関に関する情報が取りざたされるようになった。現地での取材のあり方や行動などで ある。

○避難所について
余震が続いている中で建物の中にいることへの不安を覚える人が増加したことなどもあり、「テ ントやコンテナハウスなど多様な避難所の形態が出てきた。子供・高齢者などの避難所の不自由 さに関しては解決はしていない。車中泊を原因とするエコノミー症候群で亡くなられた方も目立った。


▲避難所の中の様子。通路まで人が溢れている。2016年5月6日、益城町

○SNSなど情報管理
Twitterを中心にデマ情報が地震直後に広がった。結果的にデマを流した人は7月に逮捕された。
有名人が支援や情報提供をすると非難されたり、一方で過剰な自粛が広がった。

考察

○被災地の特性
前述の通り多様な被災地があるのが今回の地震の特徴である。復興を考える上では地域特性を生 かすことが必要である。また、地域の政治・経済の中心である熊本市が被災地でありながらも大 きな被害を受けていないことは、復旧・復興において重要な役割を果たすと考える。中心地の被 害が小さいということで、既存の熊本経済圏を意識した施策を打つことで早急な経済復旧が可能 になるからである。

○市庁舎の被災・機能不全という形で市庁舎の建て替え問題が表出
宇土市では、震度6には耐えられないという調査結果が出たばかりであったが、その調査の通り に地震によって損壊し機能移転をせざるを得ない状況になった。全国様々なところで市庁舎の建 て替え問題ということは出ているが、費用対効果としてどの程度なのかは注視する必要がある。 写真9


▲大きく損壊した宇土市役所。2016年5月7日、宇土市

○想定外の災害の発生
昭和28年の白川大水害など、水害が多い地域であり水害への対策は練られていた。地震に関して は日本全国どこでも発生しうるものであり、適切な事前対策が求められる。

○個別の建物の対策について
現地調査の過程で多く見た事象として、建屋自体は壊れていないが、建物が建っている宅地が崩 れるなどして大きな被害が出ることもあるということである。
また建物被害はその住民・利用者への被害だけではなく、道路閉塞という問題も引き起こしうる。
今回見られた事例として4m以上の幅員道路での閉塞があったが、道路設計ではなく、敷地の造成 や個々の建物の作りの問題が大きいと思われる。この問題については地道に耐震化・対策を施す しかないと思われる。
地震の被害ではあるが、街区毎・建物毎に被害の様相が違っており、津波被害が大きい東日本 大震災や火災が目立った阪神淡路大震災などと比較すると、被災がまだらな土砂災害のような印 象を受けた。同一地域でも被災の状況に違いがあり、被災を免れた人が日常生活を過ごすのに心 労がたまったりする可能性もあると考えられる。
今回の地震に於いては大規模火災は発生していない。今後起こりうる南海トラフや首都直下地震 に向けてイメージを引っ張られすぎないようにすることが大事であると考える。

○公共施設のあり方
避難所として活用されていた益城町総合運動場は平時であれば人口規模に対して過剰とも取れる ような規模の施設であった。公共施設であり、非常時も想定した施設運用が求められるが、建設 費・維持費ともにどのように評価することが大事になるであろうか。一方、益城町総合運動場の 立地場所は水防ハザードマップでは浸水区域の中にあり、大規模公共施設を作る際の立地のあり 方に問題があったと思われる。

○被災直後の対応
政府からの支援物資は東日本大震災を踏まえて、プッシュ型になった。しかし、被災地に集積し た後に、個々の避難所に至るまでの途中で人員不足等もあり行き渡らなかった。復旧期における 政府の被災地への関わり方については、首相の現地訪問等も含めて改善の余地があると思われる。 復興に関して事実ベースで言えば、東日本大震災の復興構想会議のメンバーの踏襲になっている。 きちんと過去の復興に関して評価し、改善していくことが災害多発国日本として必要なことであろう。