地域デザインをめぐって vol.02 “京都”

嵐山研究会に参加して想うこと

伊奈ゆう子 + 澁谷崇

2014年9月5日、京都・嵐山の天龍寺友雲庵において嵐山についての研究会が開かれました。京都大学農学部の環境デザイン学研究室、京都大学大学院工学研究科の景観設計学研究室、地元でまちづくりに主導的に取り組まれている方々が天龍寺に集まる中、地域デザイン研究室も窪田と学生3名が参加し、窪田から話題提供も致しました。

研究会概要

嵐山での現地見学
ご挨拶 栂 承昭(天龍寺宗務総長)
話題提供
深町加津枝(京都大学准教授)「嵐山の景観に見る地域らしさ」
那須 將(東京大学博士課程)「歴史資料からみた嵐山の景観」
後藤田ら(環境デザイン学研究室4回生)「嵐山における筏プロジェクト」
山口敬太(京都大学助教)「歴史と事例からみる河川景観整備のありかた」
窪田亜矢(東京大学教授)「大槌町(岩手県三陸)における防災と景観の取組実態」
コメント
柴田昌三(京都大学教授)

地域デザイン研究室の参加者:窪田亜矢、伊奈ゆう子、澁谷崇、益邑明伸

研究会に参加した学部4年の伊奈と澁谷が研究会を振り返ります。

温故知新

伊奈ゆう子──今回の勉強会は、嵐山の天龍寺にある友雲庵という建物の広間をお借りして行われました。テーマは「嵐山の景観」について。桂川にかかる渡月橋と、そこからの河面と山の景色で有名な景勝地ですが、今後取り組むべき課題もいくつか見えてきました。天龍寺の栂宗務総長が開会時に「温故知新」という言葉を紹介されていたのが、私たちが普段口にしているよりもずっと説得力というか、重みがありましたね。

澁谷崇──世界遺産にも認定されている歴史ある天龍寺の方が、古いもの/新しいものがそれだけで良いということではなく、古いものに、新しいものを取り入れてよりよくしていくことが重要だということをおっしゃられていたことは、色々考えさせられました。

伊奈──寺社や文化に関して古いものが多く守られてきたということはもちろん、河川付近の家屋では水害への対策にも昔からの知見が活かされていているというお話もあった(写真)。そうした蓄積の中身をまずはきちんと知ったうえで、地域を取り巻く人々同士で新しい価値をどう生み出していくかのビジョンを構築していくことが理想なのかなと思いました。今回の勉強会のように、「温故」と「知新」を行き来しながら広く嵐山全体の価値について考えていける場がいくつも生まれてくると、今ある価値の守り方と新たに生み出していく価値の方向性が見えてくるんじゃないでしょうか。


▲桂川沿いの建物は道路よりも盛り上がった場所に建っており、これが被害を小さくしたと考えられる。

景の「見方」

伊奈──那須さんが嵐山について、景勝地としての歴史のなかで鑑賞方法や構図が共有されてきたことによって景の「見方」が蓄積されてきた、という視点を紹介されていました。これって富士山や、京都市内のほかの寺社仏閣でも起きてきたことではないでしょうか。

澁谷──那須さんも仰られてましたが、嵐山の場合は、文学的イメージに合致している風景が残されていることが強味ですよね。今の世においてそれを体感している身にとっては、それを残して来た先人の努力に頭が上がらない。ただ、文学的イメージが強すぎると、実情以上に期待値が上がってしまい、訪問時の満足度が下がってしまうという事実もあると思います。景勝地の良さでもあり、悩み所でもあるんでしょう。


▲桂川と渡月橋。亀山上皇の時代から、景勝地として山の手入れがなされてきた。

防災面等から合理的に形成されるものとしての「景観」

伊奈──窪田先生は大槌町で行われてきた活動の紹介を通じて、防災性を前提とする空間形成の結果として生じてきた景観が持つリアリティについて述べていました。たとえば堤防をつくるにしても、「被災のことを忘れてはいけない」という考えの下で、行政の方や住民の方が一緒に最適解を探していくという。

澁谷──山口先生は、河川の防災と景観の話をされて、有事の際を想定し防災面で十分な高さ、広さを確保するだけではなく、平時に住民が水と関わりを持ち、関心を忘れないようにすることを両立することを述べられてましたね。具体的に言えば、ただ、高さを高くしたりするのではなく、水に近づけるような空間を作ったり。

伊奈──河川と一口に言っても、スケールや流量、地質等の地理的な条件がさまざまに異なる上に、流域の地域において守るべき景観や文化に関する条件も多様に存在する。だから当然、水辺空間の造りも、その地域ごとに答えを選択していくことになりますね。河川断面の処理について、事例を見ながら手法を解説して頂いたので、じゃあ嵐山ではどうしたらいいだろうか、とイメージしながら考えられるようになりました。土の事例でも、防災×景観の両方を諦めないための工夫がとても面白かったです。分野にこだわらず、普段からこうした事例研究で知識を蓄えていくのは大事なことだなあ、と引き締まる思いがしました。


▲護岸工事予定地。川沿いに歩くと、ある地点から山がぐっと近く感じられる。

澁谷──今の時代にあった堤防を作るということを考えても適切なものを作ることは可能だとは思いますが、先人も同じような水害被害にあい色々工夫してきた歴史がその地にはあるはずなので、それを調べ尊重することも大事だと思います。

伊奈──嵐山で言えば、水害常襲地域ではあるものの近年そのリスクが高まっていて、一方、景勝地としての歴史的・文化的経緯は条件としてかなりの存在感を持っています。今まさに、国土交通省によるパラペットを設ける改修工事の話が進められているそうで、難しい条件の中で最適解を探るための議論の場がうまく設けられるといいのかなあと思います。

澁谷──特に、河川と道路で管轄している部署が違い、それぞれの目的が一致していない為に、住民が望んでいるものを必ずしも実現出来ないという事実もあり複雑である。現地見学で地元の方が教えて下さったのは、嵐山の桂川では昔から恒常的に氾濫があって、被害に遭ってきた沿岸の家は、大きな水害(1967年等)で浸水があると宅地の嵩上げを行ってきたということ。これはまさに防災の取り組みこそが景観を作ってきた例。しかし、このような対策は道路に水が溢れることを前提としており、道路を管理しているものは許容出来ないようである。


▲芭蕉の弟子、去来の別荘だった落柿舎にて。文字通りの駆け足で周った京都見学ほっとするワンシーン。

”景勝地”の景観を形成していくことの複雑さ、難しさ

澁谷──上記の文学的イメージに合致する景観の維持は時には、景観を維持するということを目的化する。景観を維持することが地域住民/自治体に支持される前提には、地域固有の相応の歴史とイメージがあると考えられます。そのようなものは、どこにでもあるものではなく貴重なものであり保護すべき対象であると言えそうです。
ただ、一方で、形だけを残そうとすると魅力が失われ、作り物のテーマパークのようになるという問題もあるでしょう。

伊奈──今後、嵐山の景観はどう捉えられて、それを誰が実現していくことになるんでしょうか。これまでと同様の景勝地として、あの景色を期待して訪れる人を裏切らないように手入れされていくことが良いのか、今後数十年を見据えて再解釈すべきタイミングにきているのか。

澁谷──地域住民が中心となって考えて、実行していく問題ではあるでしょうが、地域デザインを研究するものとして、そのような活動を支えられるような仕組みであったりを作れるように頑張りたいですね。


▲研究会を終えて京都大学の先生方、学生と一緒に。

京都大学 農学部 森林科学科 環境デザイン学研究室
柴田昌三先生、深町加津枝先生が所属されています
http://www.landscape.kais.kyoto-u.ac.jp/
京都大学大学院 工学研究科 社会基盤工学専攻 景観設計学分野 景観設計学研究室
山口敬太先生が所属されています
http://lepl.uee.kyoto-u.ac.jp/
当勉強会に関するブログ記事