地域デザインをめぐって Vol.29 “善光寺門前”

2019年度研究室旅行から

植田啓太 齊藤領亮 藤本一輝

 2019年9月11日・12日の両日にわたり、京都大学景観設計学研究室と合同の研究会を兼ねた研究室旅行が挙行されました。長い年月を掛けて形成されてきた善光寺門前町では、近年リノベーションによるまちづくり活動が活発に行われています。今回の旅行では、こうした取り組みに携わるキーパーソンの方々へのヒアリングやまち歩きを通じて、それぞれの研究テーマや地域デザインについて考えを深めていきました。研究室B4の3名が振り返ります。

善光寺参拝


長野駅に降り立ち、まずは善光寺へと向かいます。善光寺は644年に創建されたと言われ、その門前町を起源とするのが長野市です。時代とともに市街は南へと拡大していき、それと並行して境内からまっすぐに伸びる直線的な参道が形成されていきました。駅前の繁華街から門前町へ、街並みの変化を感じながら30分ほど歩き善光寺に到着。雨が降りしきる中、善光寺の厳かな佇まいに圧倒されます。まずは、研究室メンバー一同で、善光寺を参拝しました。(植田)

ナノグラフィカ・増沢珠美さんと


続いて、京大景観研究室の皆さんと自己紹介を済ませ、「ナノグラフィカ」代表として演劇などをイベントを企画運営を行い、「門前暮らしのすすめ」プロジェクトや空き家見学会などにも携わる増沢珠美さんと、ナノグラフィカさんの畳敷きの一室にて、意見交換を行いました。
増沢さんは、門前町から古い建物や路地が無くなっていくことに対して「まちはみんなのものだから、勝手に壊すのはおかしいのでは」という怒りのような思いから、空き家の発掘や地域情報の発信、門前暮らしというライフスタイルの提案などといった一連の活動を始められたそうです。意見交換では、一連の活動のプロセスについてお話を伺うことができました。その中で特に興味深かったのは「◯◯会のような組織を作らない」というお話、そして「演じることを通じて、まちでの人付き合いを考える」というお話でした。それまで、私は何かの中心的な組織が現場を動かしていけば地域は良くなっていく、というように考えていましたが、まちの中では誰もが全員と仲良くできるわけではなくて、自分と合わない人に対しては演じながら付き合いをしていくしかない、という増沢さんの言葉を聞き、大きく揺さぶられました。地域の中にはそれぞれやりたいことを持っている人々がいて、お互いを認め合って成り立つ共存・集積こそが地域を良くしていけるのではないか。そんなことを考えながら、増沢さんの言葉に耳を傾けました。(植田)

門前町を歩く


ナノグラフィカさんでの意見交換の後は、駅前から善光寺まで通ずる中央通り周辺をひと通り見学しました。
中央通りは長野市の顔として、豊かな歩行空間が整備されていました。石調で統一された舗装や沿道の瓦屋根や近代建築によって、善光寺の表参道らしい景観形成がなされていました。一方で駅側へ下ると、足元部分が瓦屋根で統一されつつも上に高く伸びる中高層マンションやオフィスビルが中央通り沿いに数棟建つ奇抜な街並みも見られました。
連担制度によって歴史的建築物を複合商業施設として一体的に蘇らせた「ぱてぃお大門」では、既存の建物を生かしつつ曳家や新築によって空間構成が再編され、オープンな中央通りとはまた違う固有の雰囲気の街並みが形成されていました。その独特な空間の印象は、単にその歴史的な建築物や「門をくぐる」という稀有な都市体験によるだけではなく、曳家によって広いコモン広場を作る一方で細長い通路で裏側道路まで抜けられたりといった空間のメリハリ、敷地内の高低差を生かした多様な階段や起伏によっても生み出されているのではないかと思いました。(齊藤)

MYROOM・倉石智典さんと


ぱてぃお大門の近く、これまた中央通りから一本入った細い小道を進むと、道沿いにリノベーションされた建物が3棟並んでいます。ここの一室に事務所を構えるMYROOMの倉石さんにもお話を伺う機会を頂きました。自ら街を歩いて空家を探し所有者を説得する地道な努力によって、市場に出ることがないはずだった物件を必要とする顧客とマッチングさせていく、地道かつ画期的な取り組みを展開する倉石さんの言葉は、その一つ一つが新たな発見の連続でした。
個人的に印象に残ったのは、「一地域一社」という概念です。「地域密着型」を掲げる設計事務所や工務店は多くあるものの、とはいえ請け負う案件の地理的範囲はどうしてもある程度広くなるのが一般的と思います。そういう意味で、自分が歩いて空家物件を探すことができる範囲だけを商圏として、実際に受け持った物件という「最強の営業マン」を片腕に、地道に地域の方々との信頼関係を構築し、ビジネスとして成立させているMYROOMは画期的なビジネス形態であり、既存ストックの活用が叫ばれる中ではこういった職能がまさに求められているのではないかと思いました。(齊藤)

夕べ


夕食はぱてぃお大門内のダイニングバーでいただきました。人数の都合上全員の方をお話しすることはできませんでしたが、研究室旅行初参加の私としては、改めて皆様の自己紹介を伺い関心対象を共有することができ、2日目の会議に向けて、充実した時間となりました。
B4の3名と京大修士の三方と宿泊した「ことりの宿」は、善光寺をさらに北に越えた住宅街に佇む素敵なゲストハウスで、朝食も大変美味しく、ゆったりとした時間を過ごすことができました。(齊藤)

合同研究室会議

2日目は、長野県教育会館にて合同研究室会議を行いました。
ワークショップを行う学生と研究発表を行う学生に分かれ、私はワークショップに参加しました。
はじめに各人の研究テーマを共有したあと、「都市デザイン」「まちの景観」の2グループで、ディスカッションがスタート。
私は「都市デザイン」に加わり、およそ3時間、「道路」を切り口にした話し合いを行いました。
学生がそれぞれ異なるバックグラウンドを有していることもあり、個々人の都市的体験の豊かさも相まって、多様な視点に基づいた議論が展開されました。
真に賑わいのある空間とは、道路と建築の連続性をどのように表現するか、グリーンインフラを導入した街路のあり方とは……
丁々発止の議論が続き、最後に全体への発表を行いました。
「道路」という共通の題材をもとに各人の研究テーマに絡めた所見を述べるという形式で、雑多ではありますが、参加者に対し前述のような問題提起を投げかけることができたのではないかと思います。
一方で、短時間という制約もあってか、議論全体をメタ的に捉えるまでには至らず、議論の射程が限られてしまった点が反省材料となりました。

ランチタイムでは合宿全体の感想を一人ずつ述べ、解散。
個人的には、善光寺を頂点とするヒエラルキーを有する門前において、表参道とそれに直行するみちで空間の質が異なっていたことが印象に残りました。

長野。界隈を形作る個性豊かな方々や、門前町特有の歴史と新たな文化の融合を感じさせる景観に、都市を愛し探究する歓びを思い出させてもらったような気がしました。
今後の研究につながる新たな視座を獲得することのできた、充実した合宿でした。(藤本)