地域デザイン論(2018年度夏学期)

総評:

・地域の起点を、地形や自然条件に求める人が多かった。そのような姿勢によって、目の前にある風景や一つ一つの敷地の理解の仕方が変わったと感じた人もいたと思う。履歴を読み解く能力は、基本的に皆さん高いので、履歴を読み解こうという姿勢を忘れないでほしい。

・提案には、自分が向き合った地域の固有性が現れるはず。そのうえで、普遍化できるとなお良い。地域の固有性をふまえた提案を求めるのは3年段階で酷かもしれないが、地域を対象にして、プランやデザインを提案するときには、地域のどなたかが聞いても、なるほど、と思える部分があってほしい。全面賛成ではなくても、そういう見方があるか、と思っていただけるためには調査が重要。

・全員分のレポートを読んでください。非常に面白い知識が習得できるだけでなく、視野を広げる機会になると思います。

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個人別(発表順、かっこ内はイニシャル):

(I)東久留米

・4.1倍の人口急増したときの地図によって、どういう空間変化があったのか示し、こうした市街地特性は何か。そこに、次の時代に必要な改変に向けたヒントを探してほしい。施設誘致だけにとどまらない方向性を考えてほしい。

・集合住宅団地やそれが広がっている市街地の特異性は何か。

・「意外性」があるが「馴染む」というものは確かに存在すると思う。しかし、しばしば悪意をもって、もしくは善意のもとで、「意外性」があって「馴染まない」ものがつくられる。その判断の精緻化を求めたい。

(U)三重県長島輪中

・表紙の写真が、今の長島を伝える意義をもつ。刹那的で夕日に映えて美しい。

・治水は、少なくとも近世以降、統治者の大きな仕事であり、同時に各世帯各集落によるすぐれた工夫があった。そうした工夫の蓄積としての風景がある。複合観光施設近くの風景との対比をどう捉えるか。

・「複数の輪中が一つの島にまとめられていく中で、住民の水防共同体としての意識は薄くなった」とあり、この点は、その因果関係や実態をぜひ突っ込んで明らかにしてほしい。

・特に日本の都市部において、地域社会が川と関係を持つことの必要性が薄れる中で、避難先としての物理的な場所が水屋として設置されたとしても、文化という言葉に包含されるものになるのだろうか。

(U)高島平

・高島平の基底として南側の崖線と北側の新河岸川があり、今回の地域として設定されたど真ん中に交通動線が通された。それが、住む人にとっては「地域の分断」と感じさせる要因ではなかろうか。

・しかしその分断が、どう問題なのだろうか。あるいは、分断をつないだときに、どういう風景が生じることを想定しているのか。「歩道橋は使いやすいように設計されたものでないと使われない」という指摘はその通りと思う。このような、まずはモノを作ってから、利用を促していく、というスタイルは確かにあり得る。しかしなぜその利用が要るのか、という点の妥当性が問われる。

・リンチがエッジといっているものを、うまく機能させるプランニングはないのだろうか。

(S)ふるさと国分寺

・端的に東京郊外の駅をもつ住宅都市の概況をレビューしている。しかしそれがどのように「らしさ」につながっているのか、空間的な考察が欲しい。

・駅から少し離れたところに大規模商業施設を配置する方法は、イギリスの都市再生においても意識的に採り入れられたマグネット方式。

・一つの事例から、なぜ「まち」がいるのか、という普遍的な考察につながっている。

・周辺の市街地特性(大学の存在、バス交通など)をどう活かせるか、という上原君の質問も良かった。

(S)新潟古町

・歴史は本当に深い。今の古町が、このまちでの商業交易を支える「物流のために計画されて作られた都市」だとするなら、その空間や構造をうまく活かしながら、新たな価値を生み出す機能が、必要なのではなかろうか。都市観光は、確かにそれを、希少なものとして尊び楽しむ重要な機能だと思うが、80万人都市だからこそ可能な創造性を備えた何かがないものだろうかと思ったりする。

・「柾谷小路と住商のところで、求める賑わいは違う」と答えていたことも一つのヒント。現状で示しているように確かに小さな界隈の複合体として理解することは重要。

・それぞれの提案は納得がいくが、スケールをあげて理解できる(まちかどなどのささやかながらも重要な場所とか塀や屋根などの建築ボキャブラリーとか)資源も合わせて提案を考えると、異なる可能性があるかも。

・縮退の懸念がない状況のもとで、新潟は何を生み出すことが役割なのか?

(T)洗足池

・テラスジュレや洗足池や中原街道を、抽象化もしくは普遍化して理解すると、他に活かせる知見になったのかもしれない。たとえばリンチの5つの要素には、その要素が自然性を帯びたものである場合などを包含できていないが、特に東京において「池」をはじめとした自然的な要素は重要であり、自然性を帯びないランドマークとの差異を考察してほしい。都市の中における自然(的要素)。

・何かを解決したあとの事例として位置付ける捉え方もあったのではないか。

・池周辺に人を集めたいという発想は共感するが、そちらに多様な機能を詰め込むと、まちの方はどうなるのだろうか。対象よりも周辺(同時に、対象よりも小さな敷地単位)を同時に考えることは常に重要。

(T)西東京市

・衰退していくという未来予想を述べるなら、データ補強が欲しい。プランナーとして、未来を想定することは常に重要であるが、特に大きな問題ではなかったとしたときにその点を問題として取り上げることの影響を考えてほしい。9p「地域の衰退」という言葉は、慎重に使うべきであろう。

・「地域の衰退」が生じるとして、雇用や空き地の活用で対応できるのか?

・また、衰退といわなくても今回の提案は生きるのではないか。

・地域内循環、地域内再投資は、重要な概念であり、金銭のみならず、再投資できる要素を考察してほしい。

・西東京市ならではの空間的資源(空き家や空き地の生成している量や立地特性や戸建て住宅地の状況など)と関連させて課題や提案を検討しないと、提案の確度がさがる(どっかでみた提案に見えてもったいない)。

(H)吉祥寺

・歩いているからこそ作れる自作のマップと説明は非常に良い。建物の大きさは入っていた方がよい。写真にキャプションを入れるとさらに伝わるものになった。

・吉祥寺大通りがつくられたことで、このエリアの都市構造が決まったと思われる(内部の歩行快適性が確保された)。

・大規模なものに対して批判的であったが、その説明が欲しい。大規模と小規模が混在している意義はないのか。

・提案の中で、コレド日本橋のようなものを推奨、という方針が示されたが、個別の商店の並びとの違いについて、考察を深めて欲しい。

(H)尾鷲

・「縁もゆかりもない」ところから尾鷲を選んで、関心をもって地形や気候からおっていった姿勢がよい。卒業研究でも同様だが、テーマから対象を決めていく方向と特定の地域やまちが先にあってテーマを深めていく方向と二つある。前者の場合、頭の中で考えていたテーマが、対象地域をもつと、さらに豊かに広がってくる、という体験ができる。とはいえ、意識的にならないと当初のテーマが広がらないので要注意。

・漁業コミュニティと林業コミュニティの差異や共通性が、図面上で記述されると、尾鷲の地域特性がよくわかったと思う。さらにそれらが、より小さなスケールにおいて読み解れたら、提案は非常に確度が高くなる。

・被害や災害対応、伝承、避難訓練の経路などなども地図化できると、「事前復興」としての提案にもつながったかもしれない。

(M)広島

・広島において、川に着目するのは重要だと改めて思う。しかし河川をとりあげるなら、川沿い空間の分類(地図上に落としてみる必要がある、写真7と図1をあわせてみて自分でもっと考察して)のみならず、悉皆的でなくても橋詰め空間がもたらす市街地特性など、もっと特徴があるのでは。

・歴史などについては有名事例ではあるので、たとえば軍都だったころの空間的遺産を詳説するなど、出身地ならではのオリジナリティは欲しい。

・ダイヤグラムは、おおよその位置を設定していると思われるが、たとえばその交差部がどうなるのか、講義でも述べたように平和公園の軸線からたとえば球場跡地は見えているわけで、そういった関係をふまえた提案が要るのでは。逆にいえば、提案を引き出すダイヤグラムは別に要るのでは。

(Y)入

・河岸段丘であるハケを対象として、三つの歴史的な層に提案を結びつけている全体の物語に説得力がある。冒頭に丁寧に説明があるので。そうした歴史的な層を重ねることの重要性や意味は何か。コンセプトの立て方もしくはその姿勢が面白いので、意義をあえて説明してほしい。

・歴史を伝える意味でもお茶は使える(という質問というかコメントが他学生さんからあり)。

・土地そのものの重要性を明示することで、開発プロジェクトの規制にも使えるのではないかという発想の提案で、広域調整にも言及しているのは重要だが、具体的にはどう調整するのか、検討して考察を深めてほしい。

(U)戸越銀座

・地域への愛情が伝わってくる発表だった。オリジナリティを目指すべきという提案の方向性もよかった。

・「雑多ではあるがスプロール化はしていない。無理に発展させずに『上手に閉じる』というアプローチは重要」という指摘は非常に重要だ。それが具体的にどういうことか、それをフィジカル・プランニングとして示してほしい。

・第一の提案(一階部を商業活動ができる間取りにする)は、横浜の関内でも取り入れられており(マンションが建ち並ぶと活気がなくなる)現実性はある。しかしオープンであることは重要だと思われるが、商業機能に限定せずに、公益的な機能(集会所や碁会所などとする、家賃を地元で集められるかが問題だが)やチャレンジショップなどでもいいのでは、とも思ったがどうでしょうか。

(N)黒部市生地(いくじ)

・明治の経済不況によって男が遠洋漁業に出かけることになり、生活用水を身近で確保する必要性が生じたから、共同洗い場が整備された、という。空間は変わるものだし、その合理性によって継承されるものだとつくづく感じた。

・図4をみると清水湧水の立地は地形と社会的な土地利用の両方に関係がありそうで、その点についての考察や文献調査がほしい。

・水の冷たさまで配慮した提案はとても良い。水との関わり方が深くなくては出てこない提案。

・質問のやりとりの論点、すなわち、水質の担保を誰がやるのか(行政か、地元か、本人か)という点は、公と共の関係とその変容、地域ならではのコモンセンスの特徴を考察することができそう。

・図9は、建物の入り口、人の動線可能範囲、植木鉢や花壇の位置、家屋の窓の位置とか、、、もうちょい入れてくれー。

(H)神戸

・神戸は、都市史の論文なども豊富なので、近代以降の歴史についてもっと調べてほしい。むしろ水害の打撃が激しかったことがよくわかるはず。

・横浜との比較はよかった。世界を視野にいれた神戸になって欲しいという思いが伝わってきた。

・ただ、その思いがどのように実現していくのかという提案については、神戸ならではの空間特性などをふまえた確度が欲しい。

(M)幡ヶ谷

・レポートにも地図が欲しい、起きている現象が空間の中で、どう整理されるか、それをどう表現するか、インデックスは何か。創造的な作業です。

・交通の動線がどことどこでどう渋滞していて、交差部がどうなっているのか、などの情報がないと、方向性の提案だったにせよ、妥当性が判断できない。

・バスの需要の理由などに懸念も指摘された。

(F)九十九里町

・「だれにとって」という視点は重要。観光客=海、移住検討者=田舎暮らし、住人=交通、というのもわかりやすい。

・とはいえ提案の中身は、現場の実態をみたり、他の事例をみたり、スケール感や個々の資源をみたり、という作業が必須。たとえば「閉じたコミュニティ」などの言葉を使うときは自分なりの意味を考えてください。

(K)京浜臨海部

・時間の経緯をおって行く中で、国際的な順位の上下などをみないと、これまでに適用された策の評価などはできないのでは。

・自分なりの提案の方向性は欲しい。課題がない地区はない。それを解く資源がない地区もない。

(O)溝口

・街路網や郡の位置などは必ず、今の地図に重ねましょう。たとえば継立村の間隔など昔のスケール感や、交易と信仰のそれぞれの交通網の重なり方などがわかると、次へのヒントになるのでは。

・図2と図3を重ねて、デッキの箇所とグラウンドレベルの接点を明示できるとよい。

・駅と駅周辺が混むのは理由や背景が異なり、オープンスペースなどの対応についての示唆もよいので、そこらへんも提案に含めたいところ。

(S)盛岡

・駅とバスセンターの関係など、盛岡の今の都市構造を知るうえで、言及すべきところにはしているが、突っ込むべきところが欲しい。

・全般的に、だれかが言われていることが多くて、総花的になってしまったのが残念。

・30万人都市ならではの魅力をもっとアピールしてください。北上川から岩手山への眺めを守った歴史もあります。

(O)横浜みなとみらい

・自分の経験に基づいて愛着をもっていることが伝わってきた。

・横浜は都市デザインの雄。日本大通りなど明確に歴史を経ている空間の価値が、1960年代からの飛鳥田市政、田村明、北沢猛、という都市デザイン室の潮流によって形成されていったことをぜひ抑えてください。

(S)海士町

・地域の内向的独立性の高さと外向的連携性の豊かさが、それぞれどういう空間に、結果として現れているのか、みられるといいですね。

・「プロジェクトベースのつながり」という視点は重要。過去の蓄積をふまえたうえで、どういう「つながり」に意味があるのか、実践的にかかわるのが良い。

・使っている言葉に思考の跡が感じられる。具体的な事例を抽象化する作業を脳内で行っているのがわかる。自分が行ったことがある場所でやれるとよかった。

(N)栄

・久屋大通ができてすぐに栄えたのに、明治にできたときの名古屋駅はそうでもなく、そこから次第に栄えていった、という流れの説明は明確だった。

・差別化というのは基本路線として重要、ただ水や緑や歴史という言葉に幅がなく、それらが指す空間がイメージできなかった。

(H)千住

・千住の住民さんが、チェーン店は地域のためにやっていない、と見抜いているのは面白い。そういう現象を考察として引き出せたことに価値がある。

・千住らしさ=路地ということの背景や意味(どんな人が住まうのかというのが本質なら、そういう人が住まえるような空間は他にありえるかも)は、もっともっと深まりそう。たとえば「路地」によって起きている具体的な現象と、「路地」がもっている都市計画的な意味を連関させて考察して欲しい。

(H)道後

・故郷を対象にして、当然愛着もあるのだろうが、詳しい空間の説明が真っ当で、非常によかった。椿の湯、飛鳥乃湯泉、本館まわり、と、スケールをあげて提案まで考えたのはよかった。

・湯のまちならではの回遊性を、住民と外部の人にどう提供できるか、というあたりも検討のしどころか。湯があるだけではなく、湯のまち、ということが重要では。

・前半の、道後の歴史は丁寧でよく説明されていた。

(F)太子堂

・1975年から区長公選になり、当初から地区ならではの調査があって、課題と資源と、世田谷区ならではの取り組みが続いたところ。都市デザイン+住民参加の先進地域として意味を汲み取ってもらったのはよかった。

・空間がフィジカルにデザインされる背景に、住民の意見がどう反映されてきたのか。そのとき専門家、デザイナーはどう機能したのか。できあがった空間の質はどう評価されるか。

・軸を強化することの意味が質問された。

(F)緑丘、千里ニュータウン

・故郷への愛情を根幹としつつも、客観的に理解しようという姿勢もよかった。

・都市計画分野で「千里ニュータウン」の特徴を、人のつながりが弱い、として、転勤族の多さを自分の経験で語られることは強い。

・そのことの意味は何か。どういう交流が可能か、という質問があった。

・潰れてしまった跡地の活用は、なぜそれが潰れているのか、ということまで考えて欲しい。

(F)崖線よ、知れ渡れ、小金井市

・タイトルが良い。

・ただ崖線やるなら、湧水の保水機能など、緑だけでなく水の話もしてほしかった。環境は、制度や表層ではなく、土や水や生態系として理解する必要があるのでは。

・一方では、人間社会との付き合い方も含むのではないか。

・コミュニティバスはどれぐらい使われているのか、可能のポテンシャルが質問された。

(F)妻有

・草間さんの冒頭「気高い土地」などの捉え方ができるようになりたいものですね。日本の辺境がグローバル化することの意味も、本人なりの言葉で捉え直してほしい。

・縮退からのレガシーとしての作品も、リアルにあり得ると思う。

・妻有での大地の芸術祭は、他に二つとない取り組みで、特別な感じになってますが、元は、どこにでもある山間地域だったともいえる。「気高い土地」という読み解きが、私たちはどこでもできるようになりたいものだ。

(M)笹塚

・駅と街区単位の関係にフォーカスするために、丁寧に変遷図を拾ってきていて、わかりやすい。手描きの現状理解図も、diagramも、表現としてはとてもよい。

・クラスターをつくって、公園と東西方向の通路をつなげるのは良いと思うが、北側街区からの街路がきているのをつながなくてもよいのだろうか。

(K)西新、福岡

・故郷の門前町、唐津街道における、八幡宮移転などの出来事をふまえて、東西方向の西新の都市構造を明快に読み解いている。

・そこに南北方向の道をつなごうという素直な提案は、北が海であるがゆえに説得力がある。南はどう抑えるのか、あるいは町割のリズムや街路の見通し、建物の構成要素などの手がかりも提案の中に組み込めるとなおよかった。

・BIDは、現状、おそらく商店会があると思われるが、そことの違い(規模や負担など)はどうだろうか。

(H)甲府

・甲府も、時代の層がわかりやすく、魅力あるまち。冒頭の歴史的経緯を、現状までひっぱってくるときに、空間的な現象(たとえば人口の推移とか増減が、どこでどう生じているのか)に投影できると、提案に生きてくる。

・課題と提案に、必ずしも整合性がないか、、、提案ありきで、課題を整理する、というのも悪くないです。

窪田亜矢