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ベトナム・ハノイ旧市街では、圧倒的な勢いで進む観光と歴史保全、地元住民の生活とのバランスをどう取るかが大きな課題になっています。第1級保存地区は特に観光化が激しく、この1~2年で飲食店を始めとする観光産業への転換が急速に進んでいます。家賃の高い路面店だけでなく、近年は建物内部にもホテルや飲食店も出店しています。

そんな第1級保存地区に位置するHang Buom通りも、2010年代に入り週末の歩行者天国事業がさらなる観光化に弾みを付け、多くの飲食店を呼び込んでいます。敷地を丸ごと借りて建物をリノベーションする形式が流行っており、歴史的な町家も目に見えて減ってしまいました。

通り表がジェントリフィケーションの様相を呈する中、建物奥につながる廊下を抜けるとすぐそこには生活空間が広がっています。写真はそんな場所の一つ。珍しく中庭がまだ残るコロニアル建築の奥に6世帯が住み、表の喧騒とは別世界の平和な空間になっています。2階の一室には、1990年代生まれの若者が伝統工芸の保存振興と文化の発信を目的に立ち上げた会社がありました。メンバーの1人で、この建物で生まれ育った20代男子の「表は西洋化されているけど、中は旧市街の文化が成長している」という言葉に、背中合わせで存在しているふたつの空間をいかに共存させるのかorさせないのか、内部空間が非居住用途をどう受け止めるのか、旧市街観光の可能性と危うさを感じました。

2018.10.6 S. Kashihara